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稀にロトは王都の神殿へ出かける、だがキジュは一度も村から出たことなく、引っ越しで他所へ行けるのが楽しみだ。早々だが寝る前に準備を済ませようと寝室へ、中は暗く手探りで近くの棚にあるローソクに火をつけた。
「…よっ、邪魔してるぜ」
「ギャッ!」
突然、声がして飛び上がる。
「どうしました? ――誰かいますね。誰です、一体なんの目的でここに忍び込みましたか?」
入り口から覗き込んだロトの声が途中から硬さを増した。顔も緊張し警戒するようにキジュの前へ回り込む。何もされてないのに声に驚いて悲鳴を上げたことがちょっと恥かしい。
「悪いんだけどさあ…暫くの間匿ってくんねえ? 伯父貴んとこもやばくてなあ」
ローソクの薄明かりに目を凝らせば、何日か前に勝手に入り込んできた男、村長の甥がまたもや勝手に入り込みキジュのベットに寝転んでた。
寝室に入って直ぐ手前、左手の壁にロトのベットがあり並んで右側がキジュ。狭い穴倉のような部屋で風通し用の小窓しかない、それなのにどうやって入ったのか、キジュはまだしも騎士の訓練を受けたロトも気づいてなかった。そのうえ他人にベットを占領されて不快だ。
男は起き上がり頭をボリボリ掻きながらこちらへのんびり歩いてくる。悪いなんて全然思ってなさそうな不遜な態度、一度しか会ってない、それも第一印象が最悪の相手に対して慣れ慣れしすぎじゃないか。
「えっ? ……貴方は……仕方ありませんね、解りました。でもここでなく隣の部屋を使ってください」
ロトは男に手を差し伸べた。
「ふへぇぇぇーっ? ちょっとロト、なんでこんな奴を!」
迂闊だろ、ロトらしくもない。こんな悪人を住ませたりして後で何かされたらどうすんだよ。
「しかし怪我しているみたいですし、せめて治るまでは面倒みてさしあげましょう」
「へっ、怪我?」
確かに支えるよう差し出したロトの肩に掴まってなんとか歩いてるっう感じで、側を通り過ぎた顔は真っ青で全身が汚れボロボロになってた。
「なっ、何が…? まさか強盗しょうとして返り討ちにあったとか?」
「……おいおい、俺を…っぅ…なんだと思ってんだ、ああ?」
隣の部屋へ移動中の男は振り返り、半眼で呆れ顔だ。辛そうではあるが軽口を叩く元気はあるようなので安心かな。
「悪人!」
ピシッと指せばロトも振り向き呆れたように笑う、口の前に指を立て。
「しーっ。申し訳ありませんが薬湯を運んで貰えますか?」
「はぁーい」
ロトは男を連れて隣の部屋へ入る。普段は物置代わりに使ってる窓もない部屋だが、急病人や怪我人が運び込まれたときのため常にベットが整えられていた。暖炉にも熱冷ましの薬湯の鍋がいつもかけられてる。
薬湯が必要っうことは怪我だけでなく発熱もしてる。大急ぎで鍋から器に移し運ぶ。
ベットに腰掛けさせ薬湯を無理矢理に飲まし、ボロボロの服を剥ぎ取って中へ押し込む。
傷の手当てをする前から男はうつらうつらし、消毒されて痛むのかハッとしたよう目を開ける、だが側にいるロトを見て安心したようにまたうつらうつらする。熱で意識を保つのが難しいんだ。
幸なことに男の怪我は命にかかわるようなものでなく、ほとんどが掠り傷と軽い打撲で熱も一晩寝れば落ち着くとのこと。ただ問題なのは肩の傷。肩から背中にかけ後ろから斬りつけられてた。
勢いよく剣を振り下ろした傷で、最初の一撃がこの傷と仮定すると相手は明らかに殺意を持っていた。迷いも見られないことから人を殺すのに慣れてるか、全く戸惑いのない人間。どちらにしても厄介だ、きっと今頃は血眼で男を捜してる。
襲われた理由や相手が誰か本人に事情を聞くまで何も解らない、本当は身内に連絡するべきだけど先の男の言葉もあり誰にも内緒で匿うことに決めた。
≪1-3|目次|1-5≫